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更新日:2023年4月1日
1ページ(表紙)
旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び支援に関する条例
(略称:旧優生保護法被害者支援条例)
明石市は被害者を見捨てない
明石市 2022年2月
2~3ページ
広報あかし 2021年(令和3年)7月15日 1337号
シリーズ市長が聞く
やさしいまちは私たちの希望 差別されない社会に
市では障害のある人もない人も、誰もが安心して暮らせるまちづくりを進めています。聴覚に障害があり、旧優生保護法の被害者でもある小林たかじさん(89歳)・喜美子さん(88歳)に泉市長が聞きました。
泉/こんにちは。お久しぶりです。
小林さんは普段手話でお話をされますが、以前はろう学校でも手話が禁止されていたと聞きました。昔と比べて手話は使いやすくなりましたか?
たかじ/私たちも長い間、聞こえる人に手話を教える活動をしてきました。今の市役所には手話通訳者がたくさんいて、手話が通じるのでありがたいです。
市長も手話が上手ですね。市長になる前から手話で話をしていたのを見て驚いたことを、はっきり覚えています。
手話は言語。広がる取り組み
泉/私は司法修習生時代に「手話」という言語を奪われた歴史を知り、こんな理不尽なことは許されないと思いました。市長になって「手話言語・障害者コミュニケーション条例」を作って小学生の手話教室を開催したり、手話通訳者や要約筆記者の要綱を改正して派遣範囲を大幅に広げたり明石駅前に「手話フォン」を設置したりしました。手話が使いやすいまちづくりに取り組んでいます。
ところで、小林さんは今、旧優生保護法の被害者として裁判中で、8月3日に判決が出ると聞いていますが。
強い決意で決めた裁判
たかじ/はい。被害者は他にもたくさんいますが、名前と顔を出して裁判をする人は少ないです。家族や親戚から反対された人もいるようです。私たちは何も悪いことをしていない、間違っていないので恥ずかしいことはないと話し合って裁判することを決めました。
何も知らされないまま中絶・不妊手術をされ、赤ちゃんを産めない体に
喜美子/昭和35年に結婚しました。子どもがたくさん欲しいね、と話し合っていたので、妊娠した時はとてもうれしかった。次の日私の母が義母から呼び出され、何かを話し合っていました。私は耳が聞こえないので何を話しているのかわかりませんでした。その後、母に病院に連れて行かれ、「赤ちゃんが腐っているから捨てないといけない」と言われました。医師からの説明もないまま中絶手術をされてしまいました。それでも、もう一度赤ちゃんが欲しいと思っていましたが、二度と妊娠することはありませんでした。
2018年に国の法律があったと知る
知らない間に不妊手術までされていたことを知ったのは3年前のことです。聞こえない仲間から、「優生保護法」という法律があったことを教えてもらって、初めてそういうことだったのか、とわかりました。私の身体を元に戻して欲しい。国が間違ったことをしたのだから、謝罪してもらいたいと思っています。
たかじ/なぜこんなことをされなくてはならないのか、こんなことが許されるのか、未だに憤りは収まりません。
泉/耐え難い経験をされたんですね。
たかじ/大工の仕事をしていたのですが、耳が聞こえないのを理由に、差別をされ、悔しい思いばかりをしていました。それでも腕を磨こうと必死で働いてきました。
泉/長い間、想像もできない苦しみを抱えてこられたんですね…。
みんなが暮らしやすい社会をつくる
私は、障害のある人が安心して暮らせる社会は、みんなが暮らしやすい社会だと思って「やさしいまちづくり」を進めてきました。「障害者配慮条例」を制定して、お店への筆談ボードや点字メニュー、簡易スロープ等の公的助成制度を作ったのもそのためです。
まもなくオリンピック・パラリンピックが開催されますが、明石市は「先導的共生社会ホストタウン」に選ばれていますので、しっかり役割を果たしたいと思っています。
旧優生保護法の問題についても、明石市としてできることを進めていきます。
たかじ/ありがとうございます。もう私たちのような思いをする人が出てこないようにしてほしいと思います。
喜美子/ありがとうございます。これからも頑張ってくださいね。
小林夫妻の裁判について
昭和35年夏、小林喜美子さんは妊娠していましたが、説明や同意もなく中絶・不妊手術を受けさせられました。小林夫妻は、国に対して損害賠償と謝罪を求め、訴えを起こしました。今年8月3日に神戸地方裁判所で判決が出る予定となっています。
(追記)
旧優生保護法が憲法に違反することは認められましたが、損害賠償については、除斥期間を理由に認められませんでした。
4ページ
目次
p2-3やさしいまちは私たちの希望 小林夫妻と泉市長対談
p4目次
p5条例制定までの経過
p6優生被害者支援アドバイザーからの提案
p7条例のポイント
p8~17条例の逐条解説
p18~19条例案に多くの意見が寄せられました
p20~26優生被害者支援アドバイザー・関係者からのコメント
<資料>
p28~29条例制定を求める請願書
p30~32優生保護法
p33~35一時金支給法
p36~37「不幸な子どもの生まれない県民運動」
<おわりに>
p38~39明石市障害当事者等団体連絡協議会
(通称あすく)からの喜びの声
5ページ
明石市 旧優生保護法被害者支援条例 制定までの経過
2018年(平成30年)
1月 1人の女性が仙台地裁に初の国賠訴訟を提訴
6月25日 市内10カ所に相談窓口設置、明石市障害当事者等団体連絡協議会(通称あすく)を通じて、当事者ご本人、ご家族、支援者等に情報提供
7月25日 小林夫妻と支援者が市長と面談
9月28日 小林夫妻が神戸地裁に提訴
12月10日 障害者週間あすく研修会「小林夫妻のあゆみ」
2019年(平成31年)
4月24日 国の一時金支給法成立。あすく加盟団体に説明、情報提供の協力を依頼
2021年(令和3年)
3月25日 神戸地裁 結審
6月16日 本会議質問「優生保護法被害者支援について」
7月1日 優生被害者支援 アドバイザー委嘱
優生被害者支援アドバイザー
・藤井克徳氏(JDF副代表・JD代表・きょうされん専務理事・全盲)
・尾上浩二氏(DPI日本会議 副議長・車いす利用者)
・大矢暹氏(社福ひょうご聴覚障害者福祉事業協会理事長・ろう者)
・大槻倫子氏(弁護士・優生保護法被害者兵庫弁護団)
・高田晃子氏(弁護士・優生保護法被害者兵庫弁護団)
7月4日 兵庫訴訟決起集会
※小林夫妻に「明石市犯罪被害者等の支援に関する条例」に基づいて支援金を市長が手渡し
※条例に対するアドバイザー提案を受け取る
8月3日 優生裁判兵庫訴訟判決・報告集会
8月15日 条例素案に対するパブリックコメント実施※260通(うち明石市民40通)全て賛成意見
9月7日 本会議 旧優生保護法被害者支援条例議案 上程
9月22日 総務常任委員会 条例議案 可決
9月29日 本会議 条例議案 否決 賛成9名 反対12名
9月30日 条例修正案を議会に提出
10月13日 議会運営委員会・本会議で修正案の上程見送り
10月20日 修正案に対するパブリックコメント ~11月18日※280通、賛成267通(うち明石市民184通、賛成173通)
11月15日 旧優生保護法被害者支援条例検討会
医師会、歯科医師会等医療関係者、商工会議所等商業関係者、まちづくり協議会等地域団体、社会福祉協議会や介護サービス事業者連絡会等福祉関係者に明石市行政オンブズマンである元裁判官の弁護士を加えて16名で開催。
11月29日 本会議 旧優生保護法被害者支援条例議案 上程、あすくが条例制定を求める請願書を提出
12月14日 総務常任委員会 条例議案 可決
12月21日 本会議 条例議案 可決 賛成16名 反対12名
6ページ
2021年7月4日
明石市優生保護法被害者支援条例アドバイザー提案
条例に盛り込むべきこと
1 旧優生保護法により、障害者の尊厳が損なわれ、障害者に対する差別偏見が助長されてきたことを確認し、障害者の名誉と尊厳を回復し、今後このような事態を二度と繰り返すことのないよう、共生社会に向けた取組みを進めること。
2 旧優生保護法による人工妊娠中絶手術を受けた者も、支援金の対象に含めるべきこと。
3 旧優生保護法による不妊手術・人工妊娠中絶手術を受けた者の配偶者も、支援金の対象に含めるべきこと。
4 除斥期間(改正前民法724条後段)及び一時金支給法5条3項の規定に関わらず、支援金の支給に期間制限を設けないこと。
条例項目案
1 前文
2 趣旨・目的
3 基本理念
4 市の責務・市民の役割
5 支援金の支給
6 相談窓口の設置
7 被害調査
8 市民、医療・福祉・教育関係者への啓発
明石市優生保護法被害者支援条例アドバイザー
藤井克徳(NPO法人日本障害者協議会代表・日本障害フォーラム副代表・きょうされん専務理事)
尾上浩二(DPI日本会議 副議長)
大矢 暹(社会福祉法人ひょうご聴覚障害者福祉事業協会理事長・兵庫県聴覚障害者強制不妊等被害調査チーム)
大槻倫子(弁護士 優生保護法被害者兵庫弁護団)
高田晃子(弁護士 優生保護法被害者兵庫弁護団)
7ページ
旧優生保護法被害者支援条例 2021年12月24日施行
明石市は被害者を見捨てない
条例のポイント
1 優生思想を許さないまちづくり
障害者の尊厳を傷つける事態を二度と繰り返すことのないように、優生思想を許さないまちづくりを推進します。
2 支援金を支給
子どもを産み育てる権利を奪われた苦しみに加えて、長く差別や偏見に苦しんできた被害者に対し、支援金(300万円)を支給します。
3 配偶者も対象
支援金は、旧優生保護法の規定に基づく優生手術や人工妊娠中絶を受けた人だけではなく、その配偶者も対象としています。
(表)
除斥期間(20年)経過後の請求 国は認めていない、明石市は認めている
中絶させられた被害者 国は対象外、明石市は対象
配偶者 国は対象外、明石市は対象
Topics
市民に寄り添うまちづくり
障害者支援、被害者支援、SDGs推進の3つのテーマが重なり合うところに今回の旧優生保護法被害者支援条例を位置づけています。
障害者支援 全国初 合理的配慮助成など
被害者支援 全国初 立替支援金300万円など
誰一人取り残さないSDGs推進 県内初 SDGs未来都市に選定
8~17ページ
旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び支援に関する条例 逐条解説
(条文)はじめにー前文ー
我が国にはかつて、障害者を「不良な子孫」を位置づけ、優生上の見地からその出生を防止する目的で、不妊手術や人工妊娠中絶を可能とする優生保護法という法律が存在した。同法は、子を希望する者にとっての基本的人権である、子を産み育てるかどうかを意思決定する権利を障害者から奪い、今もなお旧優生保護法被害者等の心身に多大な苦痛を与え続けている。兵庫県も、同法の趣旨にのっとり、かつては「不幸な子どもの生まれない運動」を唱導し、障害者の不妊手術を推進した。優生思想が法や施策によって推奨されることで、障害者を社会から排除し、差別や偏見の対象とし、その尊厳や人権を否定することが正当化されるなど、社会全体へ及ぼした影響は根深い。
明石市はこれまで、明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例を制定し、障害のある人もない人も、だれ一人取り残さない共生のまちづくりを推進してきた。わたしたちが、社会が生み出した優生思想によって深く傷つけられた旧優生保護法被害者等に対し、その悲しみが続く限り寄り添い続けることこそが、真の共生のまちづくりにおいて重要なことである。わたしたちは、障害者の尊厳を傷つける事態を二度と繰り返すことのないよう、優生思想と向き合う決意を新たにし、この条例を制定する。
(解説)
旧優生保護法の歴史
1948年(昭和23年)7月、主に遺伝性の知的障害や精神障害のある人、そしてハンセン病の人を対象とし、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ために、性別を問わず、子どもを産めなくする手術や人工妊娠中絶をすることを可能とする優生保護法という法律が制定されました。「優生上の見地」とは、人の遺伝的素質の低下を防ぎ、優秀又は健全な素質を高めることを意味します。つまり、障害や病気のある人を「不良な子孫」ととらえ、こうした素質が受け継がれないようにするために、子どもを産むことができなくなるようにしたのです。
この法律は、1996年(平成8年)までの50年近くにわたり存在し続け、多くの障害のある人がその手術を受けることになりました。その数は、記録に残されているだけで約2万5000人に上るといわれています。こうした優生思想は、当時、世論の支持を受けて全国で積極的に受け止められ、推進されました。兵庫県も、1966年(昭和41年)から1969年(昭和44年)までの間、「不幸な子どもの生まれない運動」を唱導し、優生手術を推進する独自施策を展開しました。
旧優生保護法上、本人同意に基づく優生手術等のほか、本人の同意がなくても第三者機関が認定すれば優生手術を実施することが認められていました。さらには、障害がないにもかかわらず、素行不良であること等を理由に優生手術を実施されたり、旧優生保護法が認めている方法以外の方法による優生手術が行われたりするなど、旧優生保護法にさえ基づかない優生手術が行われていた実態も報告されています。
旧優生保護法による被害と補償
2021年(令和3年)12月時点において、全国9つの地方裁判所・支部において、国家賠償請求訴訟が提起され、いくつかの判決も出ています。
いずれの判決においても、旧優生保護法に基づく優生手術等が、対象者の身体を無用に傷つけるものだっただけではなく、なによりも子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ・ライツ)を侵害するものであり、憲法が保障する自己決定権の侵害であるとともに、その権利侵害の程度は甚大である、と述べられています。
また、障害や病気に対する優生思想が、法律によって容認され続けたことで、人々の意識の中で障害や病気を差別する意識が醸成されてきたことも否定できません。まさに、旧優生保護法に基づく優生手術等により、障害のある人たちはその尊厳を幾重にも傷つけられ続けてきたといえるでしょう。裁判で、憲法違反の法律であると判断されることは極めてまれであることからしても、旧優生保護法に基づく優生手術等によって受けた被害は、稀有かつ深刻なものであったといえます。
こうした被害に対し、2019年(平成31年)4月、国は被害を補償するため、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下、「一時金支給法」といいます)を制定しました。これにより、旧優生保護法に基づく優生手術を受けた者については一定の補償が図られています。
ただし、一時金支給法に基づく一時金は、旧優生保護法に基づく優生手術を受けた本人にしか認められていません。これは、直接手術を受けていないものの、手術を受けた人の配偶者も被害者として認定している神戸地方裁判所判決などよりも不十分な補償と言えます。また、人工妊娠中絶手術のみを受けた被害者が対象にならない、申請期間が法施行後5年にかぎられている、一時金の金額が他の同じ趣旨の制度に比べて少額であるなど、なお被害者が求める補償との溝は深いものとなっています。
明石市の障害のある人への施策方針と旧優生保護法被害者
さて、明石市は、これまで、「明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例」を制定し、障害のある人もない人も、だれ一人取り残さない共生のまちづくりを推進してきました。この条例の前文では、「障害の有無にかかわらず平等な社会参加の機会が保障され、もって一人ひとりの尊厳と人格、選択と自己決定が大切にされる共生社会が実現されることを目指して、この条例を制定する」とうたわれています。
こうした理念を掲げる以上、障害のある人の多くが直面した旧優生保護法に基づく優生手術等の深刻な被害を前にして、これを無視することは適切ではありません。被害者たちの深い悲しみが続く限り、期間を設けることなく、その悲しみに寄り添い続け、その尊厳の回復を支援することこそが、真の共生社会を目指すわたしたちに求められていることといえます。
具体的な施策の一つとして、被害者の尊厳回復を支援するための支援金制度を設けています。この支援金制度は、国の一時金で指摘されている課題を参考にしながら、以下のような特徴を持っています。
≪旧優生保護法被害者支援条例の特徴≫
(表)
優生手術本人 国の一時金支給法は対象、明石市の旧優生保護法被害者支援条例も対象
優生手術配偶者 国の一時金支給法は対象外、明石市の旧優生保護法被害者支援条例は対象
人工妊娠中絶本人 国の一時金支給法は対象外、明石市の旧優生保護法被害者支援条例は対象
人工妊娠中絶配偶者 国の一時金支給法は対象外、明石市の旧優生保護法被害者支援条例は対象
申請期間 国の一時金支給法は5年、明石市の旧優生保護法被害者支援条例は無期限
金額 国の一時金支給法は320万円、明石市の旧優生保護法被害者支援条例は300万円
(条文)目的
第1条 この条例は、明石市における旧優生保護法被害者等の尊厳の回復及び支援に関する基本的な事項を定めることにより、旧優生保護法被害者等に寄り添うとともにその必要とする施策を推進し、もって優生思想を決して認めることなく、だれもが疾病又は障害の有無によって分け隔てられることのないまちづくりを推進することを目的とする。
(解説)
本条は、旧優生保護法被害者支援条例を定めた目的を規定しています。
この条例は、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた人やその配偶者の傷つけられた尊厳の回復に寄り添い、支援するための基本的な事項や必要な施策を定める条例です。
旧優生保護法が、障害があることや、病気であることに対して「不良な子孫の出生を防止する」と定めてしまったことから、優生思想や、病気や障害を差別することが容認され、助長されてきた時代が長く続きました。こうした過去を教訓にしながら、被害者たちの尊厳を回復し、支援する取り組みをすることが、優生思想を認めることなく、病気や障害の有無によって分け隔てられることのないまちづくりにつながります。
(条文)定義
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の定義は、当該各号に定めるところによる。
(1)旧優生保護法 昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間において施行されていた優生保護法(昭和23年法律第156号)をいう。
(解説)
一時金支給法と同じ内容としています。
(条文)
(2)旧優生保護法被害者等 次のいずれかに該当する者をいう。
ア もっぱら優生上の理由により旧優生保護法の規定に基づく優生手術を受けた者
イ もっぱら優生上の理由により旧優生保護法の規定に基づく人工妊娠中絶を受けた者
ウ ア又はイに掲げる者の配偶者。ただし、当該ア又はイに掲げる者が優生手術又は人工妊娠中絶を受けたときに当該ア又はイに掲げる者と婚姻関係にあった者に限る。
(解説)
この条例が対象とする、「旧優生保護法被害者等」の定義を定めた条文です。一時金支給法2条2項が定める「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者」よりも広い範囲を指しています。
≪被害者本人(ア、イ)≫
「もっぱら」とは、「主に」「主として」という意味の表現です。旧優生保護法では、現在の母体保護法にも定められている、母体の生命を守る目的の優生手術(母体保護法では「不妊手術」といいます)や人工妊娠中絶についても定められていました。このため、旧優生保護法に基づく優生手術と人工妊娠中絶のすべてが対象となるのではなく、主に優生上の理由、つまり、特定の障害や病気であることを理由として、それらが子孫に遺伝しないために実施された優生手術や人工妊娠中絶を受けた人が、本条例の対象となります。
≪配偶者(ウ)≫
本条例では、優生手術や人工妊娠中絶を受けた本人のほか、その配偶者も対象となります。
優生上の理由による優生手術や人工妊娠中絶は、「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利」を侵害するものであるとされています。子を産み育てるかどうかの意思決定は、男女いずれかのみでできるものではありません。手術の直接の被害者だけでなく、配偶者にとってもその権利を侵害されているといえます。このため、子を産み育てるかどうかを意思決定する権利が侵害されたと言えるためには、優生手術や人工妊娠中絶手術を受けた時点で配偶者であることが必要であるため、ただし書きのとおり定めています。
(条文)
(3)市民等 市民及び市内において事業活動又は市民活動を行う者又は団体をいう。
(解説)
明石市の他の条例の定義と同じ内容としています。必ずしも住民票を置いている人に限らず、仕事や学校などで明石市とのかかわりが大きい人たち、市内で事業を営んでいる人たちにも、この条例の理念をご理解いただきたいと考えています。
(条文)基本理念
第3条 旧優生保護法被害者等の支援は、旧優生保護法の規定及びこれに基づく優生手術、人工妊娠中絶等の措置が、旧優生保護法被害者等に対し、生涯にわたり被害を与える著しい人権侵害であったという基本的認識のもと、実施されなければならない。
(解説)
冒頭の「はじめに」でも記載した通り、旧優生保護法に基づく優生手術や人工妊娠中絶は、対象となった障害のある人等にとって憲法で保障された人権を著しく侵害するものでした。
また、これは、2018年(平成30年)から全国で提起されている国家賠償訴訟の地裁判決でも、「旧優生保護法の本件各規定は、・・・子を産み育てるか否かについての意思決定をする自由を侵害し(憲法13条)、法的な差別的取り扱いをし(憲法14条1項)、個人の尊厳に立脚せずに家族の構成に関する事項を制定したこと(憲法24条2項)につき、およそ合理的な根拠は見出しがたいのであって、その内容は国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白である(札幌地裁判決令和3年1月15日判タ1481号92頁)」など、非常に厳しく指摘されているところです。
また、「本件優生手術を受けた者は、もはやその幸福を追求する可能性を奪われて生きがいを失い、一生涯にわたり救いなく心身ともに苦痛を被り続けるのであるから、その権利侵害の程度は極めて甚大である(仙台地裁判決令和元年5月28日判タ1461号153頁)」と指摘されるように、その苦痛は一時的なものにとどまらず、生涯続くというのも特徴です。
こうした厳しい指摘は、いずれの判決においても共通してなされていることから、明石市としても、そのことを肝に銘じ、施策を実施する必要があります。
(条文)
2 旧優生保護法被害者等の支援は、障害者の権利に関する条約、障害者基本法(昭和45年法律84号)、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)、明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(平成28年条例第5号)その他関係法令が示す理念と整合性のある内容としなければならない。
(解説)
この条例の目的は、第1条に定める通り、病気又は障害の有無によって分け隔てられることのないまちづくりを推進することです。そして、病気や障害のある人とない人の平等を目指すべきことは、この項にあげられている障害者の権利に関する条約、障害者基本法、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に定められています。そして何より、明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(以下、「障害者配慮条例」といいます。)として、わたしたち自身が障害のある人の尊厳を尊重し、病気や障害による差別のないまちづくりを目指すことを宣言しています。この条例に基づく施策も、こうした関連法規が示す理念と深くかかわるものです。
(条文)
3 旧優生保護法被害者等の支援は、旧優生保護法被害者等の判断能力又は複合的な差別の影響など意思表明の支障となる社会的障壁(障害者基本法第2条第2号に規定する社会的障壁をいう。以下同じ。)の有無、程度等に最大限配慮して、必要な合理的配慮の提供とともに実施しなければならない。
(解説)
旧優生保護法による優生手術や人工妊娠中絶の対象とされたのは、遺伝性の知的障害や精神障害のある人です。その後、旧優生保護法の条文の拡大解釈により、身体障害者や生まれつき耳が聞こえないろう者、障害のない素行不良の者などにも拡大して手術が実施されてきました。このため、被害者の多くには知的障害や精神障害などの判断能力の障害があることが予想されます。さらに、被害者のうち7割が女性で占められています。このことから、判断能力に障害があるという点への差別に加え、女性であるという点への差別をも受ける、いわゆる障害女性への複合差別の影響もうかがわれます。
また、優生手術や人工妊娠中絶を受けた本人にとって、優生上の理由で生殖機能を奪われたという事実は、強い屈辱感を伴う事実です。一方で、家族や支援者にとっては、旧優生保護法施行時は、優生手術等は推奨されるべき手術でした。このため、家族や支援者の中には、法が推奨したこととはいえ、強い屈辱感と一生涯にわたる苦痛を伴う優生手術を積極的に勧めたことにつき、現在は罪悪感と葛藤を抱えている人もおられると考えられます。「複合的な差別の影響など意思表明の支障となる社会的障壁」とは、その背景となる事情も含め、被害者及びその家族がさらされるおそれのある複合的な差別・偏見や、旧優生保護法施行時と現在にかけての価値観の転換に伴う葛藤・混乱を指します。
このように、旧優生保護法被害者等には知的障害、精神障害のように判断能力に障害のある人が多いであろうことに加え、障害や性別に対する社会からの差別・偏見や、家族・支援者の抱える複雑な葛藤といった社会的障壁により、一層意思表明をすることが困難になっているであろうことが予想されます。旧優生保護法被害者等に対する支援の際は、こうした事情に十分留意し、障害や置かれた状況に即して必要な合理的配慮を提供しなければなりません。
(条文)
4 旧優生保護法被害者等の支援は、旧優生保護法に基づき優生手術、人工妊娠中絶等を受けた者のみならず、その配偶者に対しても、その状況に応じて適切に行われなければならない。
(解説)
第2条第2号ウの解説に記載のとおり、旧優生保護法による被害は、優生手術等を受けた本人だけではなく、その配偶者にも及びます。
(条文)
5 旧優生保護法被害者等の支援は、旧優生保護法が法制度をはじめとした社会全体に与えた深刻な影響を踏まえ、直接的な支援としてだけでなく、共生社会の実現に向けた必要な措置として講じられなければならない。
(解説)
前文、第1条及び第3条第2項で記載している通り、明石市は、障害のある人もない人も分け隔てられない共生社会の実現を目指すことを、すでに条例として宣言しています。一方、優生思想や、それに基づく優生手術、人工妊娠中絶といった旧優生保護法の内容は、障害のある人を不良な子孫とみなし、その存在を否定するものであり、共生社会の実現とは真逆の発想から生まれたものといえます。
旧優生保護法被害者等が、被害者として支援を必要とすることはもちろんのことですが、この被害を無視して、尊厳ある個人としてともに共生社会をつくる仲間を名乗ることはできません。過去に著しく尊厳を傷つけた旧優生保護法による被害の回復は、避けては通れないものとして取組む必要があります。
(条文)市の責務
第4条 市は、基本理念にのっとり、関係機関、関係団体等(以下「関係機関等」という。)と連携し、旧優生保護法被害者等の支援に関する施策を策定し、及び実施するものとする。
2 市は、前項の施策が円滑に実施されるよう、当該施策の実施に係る体制の整備に努めるものとする。
(解説)
旧優生保護法被害者等の支援は、市が単独で行うだけでは十分なものにはなりません。被害実態の調査や、その後の支援について、その施策が円滑に進むよう、市内外の関係機関等と連携する体制を構築するよう努めます。
(条文)市民等の役割
第5条 市民等は、基本理念にのっとり、旧優生保護法被害者等が受けた被害やたどってきた歴史に対する理解を深めるとともに、市及び関係機関等が行う旧優生保護法被害者等の支援に協力するよう努めるものとする。
(解説)
市民には、共生社会の実現に向けた旧優生保護法の被害者の尊厳回復と支援に参画していただくことが期待されています。具体的には、旧優生保護法被害者等がたどってきた歴史に対し、関心をもって触れ、理解を深めることなどです。また、市や関係機関等が連携して行う旧優生保護法被害者等の支援の中で、できる範囲で市民のご協力をお願いします。
(条文)相談、情報提供等
第6条 市は、旧優生保護法被害者等に対し、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(平成31年法律第14号。以下「一時金支給法」という。)に基づく一時金の請求手続に係る問題その他の旧優生保護法被害者等が抱える問題についての相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うとともに、法律、医療又は福祉に係る機関その他の関係機関等との連絡調整を行うものとする。
2 市は、前項の規定に基づく相談、情報の提供及び助言並びに連絡調整(以下「相談等」という。)を総合的に行うための窓口を設置するものとする。
3 市は、相談等を行うときは、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)の規定の趣旨にのっとり、個人情報を適切に管理しなければならない。
4 市は、この条例に基づく支援が旧優生保護法被害者等に適切に提供されるよう、それぞれ、の障害及び社会的障壁の内容に応じて必要とされる合理的配慮を踏まえた周知及び広報を行うものとする。
(解説)
旧優生保護法被害者等に対する相談を市が行うための条文です。
旧優生保護法関連の情報提供としては、2018年(平成30年)6月には、市役所や地域総合支援センターなど、市内10箇所に相談窓口を設けました。現在は、市民相談室(電話:078-918-5002 FAX:078-918-5102)で相談を受け付けています。
相談の中で、国の一時金の申請を希望する方がおられたら、すみやかに専門の法律家におつなぎするなどの支援を行います。
いまだ被害者として名乗り出ることができない潜在的な旧優生保護法被害者等の当事者に対し、市の支援体制に関する情報を届ける際は、被害者の多くには知的、精神障害があることを踏まえる必要があります。具体的には、わかりやすい表現方法による広報を行ったり、障害者支援団体との連携のもと、支援者の協力を得ながら情報提供をするなどの方法が考えられます。
(条文)被害調査への協力
第7条 市は、旧優生保護法に基づく優生手術等(一時金法第2条第2項各号に掲げる者に係る生殖を不能にする手術又は放射線の照射をいう。)に関する調査その他の措置を講ずるものとする。
2 市は、前項の調査その他の措置を行うために必要があると認めるときは、関係機関等に照会して、必要な事項の報告を求めることができる。
(解説)
旧優生保護法による優生手術や人工妊娠中絶は、その実施件数は優生手術だけでも約25,000件把握されています。しかし、多くの被害者に障害があることや、社会の被害者に対する差別・偏見が強いこともあり、名乗り出る被害者は少数にとどまっています。このため、行政主導で被害の実態調査を行うことが期待されています。
一時金支給法においては、一次的には国が、優生手術等に関する調査その他の措置を講ずるものとされています(一時金支給法21条)。この条例でも、市にできる範囲の調査その他の措置を講ずるべきこと、そしてそのために関係機関に報告を求めることができることを定めています。なお、市からの情報照会に対し、関係機関には、できる範囲で回答に協力いただきます。
また、旧優生保護法被害者等からの一時金の申請があったときの支給に必要な調査についても、必要に応じて支援します。
(条文)市民等の理解促進
第8条 市は、特定の疾病又は障害を有すること等を理由として、優生手術、人工妊娠中絶又は放射線の照射を受けることを強いられるような事態を二度と繰り返すことのないよう、すべての市民が疾病又は障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格及び個性を尊重しあいながら共生する社会を実現することの重要性等について、市民等及び医療、福祉又は教育に係る関係者の理解を深めるための施策を行うものとする。
(解説)
旧優生保護法による優生手術等の被害は、障害のある人だけの問題ではありません。旧優生保護法が適用されていた時代には、親族や近隣住民などの一般の市民から優生手術をすすめられたり、都道府県によって積極的に優生手術を勧奨する施策がとられたりしました。
こうした歴史をくりかえさないようにするためには、病気や障害のある人を排除するのではなく、分け隔てられない共生社会の重要性を、すべての市民が理解することが大切です。とりわけ、障害のある人の健康にかかわる医療、生活にかかわる福祉、そしてすべての市民への教育を担う教育関係者の理解を深めることが大切です。
(条文)支援金の支給
第9条 市は、次に掲げる市民に対して、除斥期間(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法(明治29年法律第89号)第724条後段の規定をいう。)にかかわらず、300万円の支援金を支給するものとする。
(1)第2条第2号アからウまでに掲げる者であって、令和3年7月1日からこの条例の施行の日まで引き続き市民であるもの
(2)前号に掲げる者に準ずる者として、次条第1項に規定する審査会が支援金の支給を必要と認める者
2 前項の規定による支援金の支給は、1人につき1回限り行うものとする。
3 前2項に定めるもののほか、支援金の支給に関し必要な事項は、別に定める。
(解説)
旧優生保護法被害者等に対する支援金の支給の根拠になる条文です。
≪対象者≫
ア もっぱら優生上の理由で旧優生保護法の規定に基づく優生手術を受けた者
イ もっぱら優生上の理由で旧優生保護法の規定に基づく人工妊娠中絶を受けた者
ウ ア、イに掲げる者の配偶者(優生手術等の時点で婚姻関係にあった者に限る)
エ ア~ウに準ずる者として、旧優生保護法被害認定審査会が支援金の支給を必要と認める者
≪金額≫1人あたり300万円
≪請求期限≫ありません。
優生保護法被害にかかる各地の訴訟ですでに出された判決では、損害賠償を求める権利は、その権利が発生してから20年で消滅してしまうという民法の除斥期間の制度のため、いずれの判決でも損害賠償が認められていません。しかし同時に、いずれの判決でも、旧優生保護法が憲法に違反する法律であったこと、そのことにより、被害者たちが甚大な損害を被ったことについては認められています。
この条例に基づいて旧優生保護法被害者等に支給される支援金は、旧優生保護法被害者等の尊厳回復と支援の目的に支給される補助金の性質を持つものであり、損害賠償とは異なります。このため、そもそも除斥期間が適用されることもありません。しかし、裁判において主要な論点となっていることから、除斥期間の適用がないことを確認的に規定しています。
(条文)旧優生保護法被害認定審査会
第10条 市は、支援金の支給要件その他必要な事項を審査するため、旧優生保護法被害認定審査会(以下「審査会」という。)を置く。
2 審査会は、委員5人以内をもって組織する。
3 審査会の委員は、旧優生保護法に基づく被害問題に関し、優れた識見を有する者のうちから市長が任命する。
4 前3項に定めるもののほか、審査会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定める。
(解説)
市民から、支援金の申請があったとき、提出書類のみで第9条第1項第1号に該当する者であることが確認できれば、旧優生保護法被害者等として認定し、支援金を支給することになります。
しかし、提出資料だけでは旧優生保護法被害者等か否か認定できないときのため、第三者委員会である旧優生保護法被害者認定審査会(以下、「審査会」と言います)を置き、認定できるか否かの審査を行っていただきます。
具体的に想定されるケースとしては、旧優生保護法を拡大解釈して優生手術等が行われた場合や、被害者等がすでに死亡している場合に配偶者のみで申請する場合などが考えられます
18~19ページ
条例案に多くの意見が寄せられました(これまでに寄せられたパブリックコメントは540通)
明石市の条例の成立が、国の一時金支給法の見直しの後押しとなるよう、ぜひとも条例の早期成立を。
一日も早く成立するよう切に願う。被害者の残りの人生に手を差し伸べることをお願いする。
優生思想と向き合うという事は、障害のあるなしに関わらず、誰もが安心して働き、お互いが支え合い、助け合って生きていく社会を目指すこと。これは、明石市が掲げるインクルーシブ社会の実現だと思う。
このような条例が各地で成立することでこれまで声をあげられなかった被害者の背中を押す重要なきっかけになるのではないかと思う。
旧優生保護法被害者の方々に対する尊厳の回復は、被害を受けた方々のみならず、現在・未来の障害のある方たちの人権・尊厳にも直結するものだと考える。明石市の取り組みが、全国の障害のある人たちの暮らしや仕事にも多大な影響を与えるものと心より感謝する。
優生保護法を知らなかった自分が恥ずかしい。明石市が障害者の尊厳を傷つける事態を二度とくり返さない、優生思想を許さないまちづくりを進めるということに安堵する。ぜひ制定を。
明石市は障がいのある人も無い人も共生できる社会を目指す市。被害者の方々は高齢で残された人生の時間に限りがある。国がしないなら、明石から障害者を支援できる社会に変えて、誰もが安心して暮らせる温かい社会作りに市民として誇りを持って取り組んでいきたいと思う。支援条例の制定を切に望む。
旧優生保護法により人権侵害を受けた被害者の方々に対して、地方行政として支援条例を制定することは非常に画期的であり、これまでの我が国の障害者施策において大きな権利侵害があった事実を明石市民はじめ国民に周知する効果もあり、大いに賛同する。
明石市民の被害者を市が救済するのは当然である。そのための税金。本人が自覚するかどうかは別で、その責任は国民一人ひとりにある。
旧優生保護法によって一度しかない人生を踏みにじられた方々の心に寄り添うことは市(私たち市民)としてしなければならない事だと思う。
自分たちがその立場だったらという想像力が必要。
強制中絶という行為が本人だけでなく配偶者にも影響することはあたり前。その配偶者も支援の対象としている点は、今の社会の人権意識にも、これからの人権意識の発展にも耐えうる内容だと思う。
あったことをなかったことにできない。それを受けとめて、つぎの世代に繋げていくことこそが、今の私たちの世代の仕事。
明石市に住んでいてよかったと思う。私たち住民にとって大切な問題を取り上げ実行していただき感謝している。
Topics
すべての人にやさしいまちづくり
障害のある人もない人も、安心して暮らせるまちづくりの実現に向けて取り組みを進めています。
「手話言語・障害者 コミュニケーション条例」制定
2015年4月施行 全国初
手話言語に加えて、点字や音訳など障害のある人とない人の幅広いコミュニケーション手段の促進について定めた条例を全国で初めて制定しました。
手話 要約筆記 点字 音訳
合理的配慮の提供を支援する公的助成制度
2016年4月~ 全国初
商業者や地域の団体が障害のある人に必要な合理的配慮を提供するためにかかる費用を助成しています。
20ページ
優生被害者支援アドバイザー・関係者からのコメント
尊厳回復と猛省の証として
NPO法人日本障害者協議会代表 藤井克徳
優生思想を正しい考え方ととらえ、「障害者は、障害のある子どもを産むに決まっている。だから子どもをもてないようにしよう」というのが優生保護法でした。この法律により、わかっているだけで精神障害者と知的障害者を中心に2万5千人が不妊手術を、5万9千人が人工妊娠中絶を強いられました。障害者政策史上、最大かつ最悪の人権侵害と言っていいと思います。また、この法律は約半世紀もこの国に居座りました。「障害は遺伝する」「障害者は劣る者」などの誤った障害者観を社会と心に浸透するには十分な期間でした。
優生保護法は国会で決まり、政府はこれを推進しました。直接手を下すという意味で自治体も加担しました。公権力ぐるみで人権侵害が進められたのです。こうした大規模で悪質な人権侵害にあって、「責任の主体をはっきりさせたくない」「古い話なので救済はあきらめてほしい」などはあり得ません。でも、国も裁判所も、こうした考え方に立とうとしています。
そんな中で、これに真っ向から向き合ったのが明石市の「旧優生保護法被害者支援条例」です。国の一時金支給法の不十分さを補うだけではなく、加担した自治体としての悔恨と猛省が込められています。公的機関としての初の「けじめ」となります。
負の政策にあって、大事になるのが「けじめ」です。反省や総括と言われるものです。明石市に続く自治体を期待します。未だ優生保護法問題の総括を終えていない国に対して、主体的な判断を避けている司法に対して、大きなインパクトをもたらすに違いありません。
被害者の体が元に戻ることは叶いません。でも、私たち市民社会にできることが二つあります。一つは、心から謝ることです。くり返さないことを誓うのがもう一つです。その証となるのが今般の明石市の条例です。被害を受けた方は、条例を活用してください。市民のみなさんは条例を正確に理解してください。誰もが住みよい社会としていくために、そして国の「けじめ」を早めるためにも、この条例はとても重要です。
21ページ
明石市民からの贈り物?受け取った私たちの責任
DPI日本会議副議長 尾上浩二
2021年12月21日に明石市本会議で、全国初となる本条例が可決され、24日から施行されています。ここに至るまで二度にわたるパブリックコメント、商工団体・弁護士などからの意見聴取があり、その度に市民の多数の賛意が示されました。その意味で、この条例は明石市民の良識の表れであり、障害者配慮条例をはじめ、これまでの明石市のインクルーシブなまちづくりの到達点とも言えます。
本条例では、人工中絶手術を受けさせられた人、被害者の配偶者も対象とした上で、申請期限も設けていません。旧優生保護法は一生涯に渡る被害を与えるものであり、「時効」などで免責されるものではないからです。
この条例の前文では、「わたしたちが、社会が生み出した優生思想によって深く傷つけられた旧優生保護法被害者等に対し、その悲しみが続く限り寄り添い続けること」を誓っています。また、本条例では「尊厳の回復」もキーワードであり、「市民等の理解促進」といった条文もあります。
かつて兵庫県では「不幸な子どもの生まれない県民運動」が官民一体となって展開されました。被害者の尊厳回復のためには、こうした歴史と向き合い、優生思想を克服していく努力を積み重ね今後に活かしていくことが不可欠です。そのことが、真に分け隔てられることのない共生社会づくりにつながるはずです。
明石市に続いて、同様の条例を全国に広げる、国の法律改正に取り組む、世論形成を進める…。なすべきことは沢山あります。次は、明石市民からの贈り物を受け取った私たちの出番です。
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明石モデルを広げ新たな支援法を
社会福祉法人ひょうご聴覚障害者福祉事業協会理事長 大矢 暹
明石市の旧優生保護法の被害者などの尊厳の回復と支援に関する条例がようやく制定されました。本会議で採択された直後の泉市長との意見交換会では、被害者の小林寳二・喜美子さん夫妻に笑顔が戻りました。9月議会での不採択に憤慨しつつも奮闘されて来られました。『尊厳回復の第一歩』が実感できた瞬間でした。
昭和35年に寳二さんと結婚された喜美子さん、数か月後に「おめでとう」と産婆さんから祝福されたにもかかわらず、数日後には「赤ちゃんが腐っている」として、宿った命が奪われました。加えて母となり親となる道さえ閉ざされました。説明も同意もない問答無用の不妊手術でした。
退院して自宅で泣き崩れる喜美子さんに、悲しみと怒りに震える寳二さん。
「なぜ、何故なんだ」
と寳二さんから激しく詰め寄られた母は
「怒るなら怒れ、憎ければ憎め、縄で首を絞めて殺せ」。
母を鬼にしたのも優生保護法でした。
しかし優生保護法はそれだけではありません。小林さんたちの国賠訴訟が明らかにしたことは、法の第一条「不良な子孫の発生を防ぐ」という優生思想の残虐性、反人間性が暴かれたことです。
すでに生ある存在として障害のある人間を「不良な存在」「生きていることは社会や国の負担」「邪魔者」とする障害観を法律で規定しました。この障害観は、身体障害者福祉法など障害者関連法にも引き継がれ、優生思想を社会に植え続けてきたのです。
寳二さんは、仕事の覚えが悪いとののしられ、殴られました。差別賃金にもじっと耐えねば働かせもらえなかったと訴えています。
「この悔しい人生を裁判長にわかってほしい、差別とはどれほど辛いか、裁判長にもみんなにも伝えたい。それが私の人生の最後の役割だ」
と話されています。
9月議会の不採択は、明石市の障害のある当事者団体の一人ひとりを燃え上がらせました。条例制定を認める請願を採択させようと結束して行動されました。それは市民の賛同を広げ議会の意思をも変えました。
明石市のこの条例がモデルとなり、兵庫県と県内、全国の自治体にも広がり、そして国の新たな救済法の制定につなげていきましょう。私も含めて障害のある当事者の役割です。そして究極には優生思想の克服を目指したいです。
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差別のない社会への道標に
優生保護法被害者兵庫弁護団 弁護士 大槻倫子
旧優生保護法は、障害者を「不良」、「子を産み育ててはならない存在」とみなし、その個人の尊厳を根源から否定するものとして憲法違反が明らかな法律でした。にもかかわらず国は、この法律のもと優生政策を大々的に推進し、地方自治体は優生手術の実施件数を競い、兵庫県はその先頭にたって「不幸な子どものうまれない運動」を推進してきました。そして国が実に半世紀もの長きにわたり、この法律と政策の廃止を怠り続けた結果、社会には、優生思想に基づく障害者に対する偏見差別が広く、根深く、植え付けられました。被害者は、優生手術により心身に耐えがたい苦痛を負い、さらには社会にはびこる優生思想、偏見差別によっても苦しめられ続けてきたのです。
しかし、国は責任を否定し続け、ようやく制定した一時金支給法でも明文の謝罪はなく、補償内容も範囲も悉く不十分と言わざるを得ません。全国の被害者が勇気を持って立ち上がった訴訟においても、裁判所は時の経過のみを理由に訴えを退け続けています。
このような状況において、今回の条例成立は、明るい一筋の光を、将来への道標として灯してくれたものと感じられます。
本条例は、前文に「障害者の尊厳を傷つける事態を二度と繰り返すことのないよう、優生思想と向き合う決意」が、第1条には「優生思想を決して認めることなく、誰もが疾病又は障害の有無によって分け隔てられることのないまちづくりを推進する」との目的が謳われています。
被害者が真に尊厳の回復をはかるために。優生思想を根絶し、偏見差別のない社会を実現するために。
まずはこの条例を、行政が、市民ひとりひとりが、しっかりと実のあるものにしていくことが必要です。そして、他の多くの自治体が明石市に続き、さらには最たる責任を負う国が、真摯に被害者の尊厳回復と優生思想の根絶に向き合うことにつながるように。
この条例を道標に、歩みを進めてまいりましょう。
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誰もが住みやすい社会に向けて
優生保護法被害者兵庫弁護団 弁護士 高田晃子
明石市に住む旧優生保護法の被害者である小林喜美子さん・寳二さんご夫妻は、結婚後間もなくして妊娠し、手を取り合って喜んでいたのも束の間、何の説明もないままに、中絶手術と不妊手術を受けさせられました。しかも、ご本人には不妊手術実施の事実が知らされず、60年余りもの間、小林さんご夫妻は、子どもが授かれない原因も分からぬまま、苦しみ続けてきました。そして、苦しみは、身体を傷つけられ子どもを授かれなかったことに留まりません。国が旧優生保護法を作ったことによって、「障害者は生まれるべきではない存在」という価値観が「正しい」こととして、社会に広がりました。小林さんご夫妻をはじめ、全国の障害がある人々は、家庭、学校、職場等、生活のあらゆる場面で、理不尽な偏見・差別に苦しみ続け、その権利を、尊厳を、人生を奪われてきたのです。
旧優生保護法の問題は、過去の話ではありません。被害者の壮絶な苦悩は、生涯消えることはなく、今もなおその傷は深まるばかりです。そして、何より、旧優生保護法に基づく国の優生政策によってもたらされた優生思想は、今も社会に広く深く根を張り、障害がある人に対する偏見・差別は確実に存在し続けています。
人の存在価値や命の重みに優劣をつける優生思想は、障害がない人にとっても無関係のものではありません。優生思想が存在する限り、社会では、「障害者」に限らず弱者を作り出しては、排除し、切り捨てるということが行われ続けるでしょう。そのような社会に明るい未来などあり得ません。今こそ、明石市旧優生保護法被害者支援条例の前文にある通り、わたしたちは、「優生思想と向き合う決意を新たに」し、障害がある人もない人も互いを認め合い尊重しあえる社会を目指し歩みを進めていかなければなりません。明石市旧優生保護法被害者支援条例の制定は、その大きな第一歩となり得ると信じています。この条例をきっかけに一人でも多くの方が、自分の問題として「優生思想」について知り・考えて欲しいと思います。そして、今後、この明石市の決意が、国や全国の地方自治体に伝播していくことを願います。
25ページ
全国優生保護法被害弁護団共同代表 弁護士 新里宏二
泉明石市長及び明石市の皆さん、粘り強く条例を作り上げたことに最大限の敬意を表します。
本条例は、「わたしたちが、社会が生み出した優生思想によって深く傷つけられた旧優生保護法被害者等に対し、その悲しみが続く限り寄り添い続けることが真の共生のまちづくりにおいて重要」として、優生思想の克服と、被害者の悲しみに寄り添い続けるという姿勢を示しています。
これは、旧優生保護法下で不妊手術や中絶手術を強いられ「人生を返してほしい」と訴えている全国の被害者に大きな勇気を与えてくれるものです。
全国では25名の被害者が訴えを提起しましたが、既に4名が亡くなっていて、早期の解決が求められています。これまで、優生保護法国賠訴訟では4つの違憲判決が出されていますが請求自体はすべて棄却されています。被害者の請求を阻んでいるのは、違法な被害でも20年を経過すると権利が失効するとの除斥期間の壁です。
2022年2月20日、大阪高裁、3月11日東京高裁で、国による違憲な法律による重大な人権侵害に対し、時間の経過によって、張本人の国の責任を免責していいのか、高裁としての初判断が示されます。
2019年4月成立した一時金支給法による認定件数は、2021年11月末時点で960件と、被害者約25,000人の3.84%にすぎません。同法は優生保護法が違憲な法律であったことを前提にせず、さらに、320万円という一時金自体被害に向き合ったものではありません。
本条例は、今なお優生保護法による被害救済の途上にあることを社会に示し、我々に、さらに、被害救済の為大きな社会運動を求めているように思います。
優生保護法国賠訴訟の勝利を目指し、さらに、障害者差別を許さない取り組みを明石市とも連帯して行っていきます。
優生保護法被害者兵庫弁護団長 弁護士 藤原精吾
全国に先駆けて明石市が作ったこの条例は、国が行った違憲で重大な人権侵害について、
①今なおその被害が償われずに残っていること
②裁判や国の一時金支給法では救われない人が大勢いること
③国は勿論、市町村にもその実施と被害の回復に責任があること
④そして何よりも、障害のある人すべてに個人としての尊厳が認められる社会にしてゆくために、国や自治体が積極的な施策(アファーマティブ・アクション)を取ることが必要なこと
を教えてくれます。
全国の市町村のお手本になることを願っています。
26ページ
明石市条例施行に寄せて
弁護士 工藤涼二
その数300万人以上と言われるナチスドイツによるユダヤ人大量虐殺は、決して忘れてはならない歴史的事実ですが、それに先行して約20万人もの障がい者や重病人を、たとえ同胞であっても「生きるに値しない生命」とみなして毒ガス等で抹殺した事実はあまり知られていないように思います。その思想的背景として「劣等な人間を減らし、優秀な人間を増殖して民族・人種の強化・発展を図る研究」として提唱された「優生思想」がありました。
これは、人間の価値を健康度や業績達成能力によって序列をつけ、病弱な者や障がい者、そして同性愛者などを価値の低い人間とみなし、「劣悪」な遺伝を断つことによって「人間の品種改良」が可能であるとするものでした。ナチスは、この思想のもとに障がい者の「断種」から「強制的安楽死」へとエスカレートさせていったのです。
これは過去の極端な事例だと思われるかも知れませんが、わが国において1996年まで存在し、患者の強制堕胎や断種手術を定めた「優生保護法」や「らい予防法」に「ナチス優生思想」との類似性を認めることはそう難しくはないでしょう。
違憲判決を出すことに非常に消極的であると批判されているわが国の裁判所も、さすがにこれらの法律が憲法に反するものであることを明言しましたが、強制堕胎手術等から20年以上経過していることを理由に、それらの手術を受けさせられた元患者からの損害賠償請求は認めていません。
もっとも政府は、2019年4月に「一時金支給法」などを設けて一定の救済を図っていますが、金額的にも320万円と決して十分とはいえず、何より強制堕胎手術等を受けた方の配偶者を対象外としている点で問題があるといわざるを得ません。
それに対し、今回明石市の定めた条例は、違憲の法律に基づく強制堕胎手術等によって取り返しのつかない身体的・精神的苦痛を強いられた元患者のみならず、その配偶者の方にも救済の光を当てたという点で、またそれを地方公共団体が国に先駆けて行ったという点で大きな意義のあるものです。
私は、このような条例の制定に少しでも関与できたことに誇りを感じるとともに、この条例が全国に広がることを心から願っています。
27ページ
資料
28~29ページ
R3 第3号
明石市旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び支援に関する条例制定を求める請願書
2021年(令和3年)11月29日
明石市議会 議長 榎本 和夫 様
兵庫県明石市相生町2
明石市障害当事者等団体連絡協議会「通称:ASK(あすく)」会長 四方 成之
兵庫県明石市相生町2
明石市身体障害者福祉協会 会長 増田 康弘
兵庫県明石市魚住町清水
明石ろうあ協会 会長 岸田 旨巨
兵庫県明石市上ノ丸3丁目
明石市視覚障害者福祉協会 会長 山下 利次
兵庫県明石市相生町2
明石地区手をつなぐ育成会 会長 四方 成之
兵庫県明石市大蔵八幡町
明石ともしび会家族会 会長 岩永 静子
兵庫県明石市大久保町大窪
明石市肢体不自由児者父母の会 会長 中嶋 美貴
兵庫県明石市藤江
明石難聴者の会 会長 中嶋 一平
兵庫県明石市西明石北町3
明石ピアポの会 代表 小宮真由子・横山 園子
兵庫県明石市大久保町ゆりのき通2
明石頚髄損傷者の会 会長 三戸呂克美
紹介議員
家根谷敦子
竹内きよ子
辻本達也
宮坂祐太
丸谷聡子
<請願趣旨>
旧優生保護法に基づき、障害があることを理由に不妊手術や中絶手術を受けさせられた国民が約2万5千人いると言われています。
全国で被害者による国家賠償請求訴訟が行われており、多くの裁判所でこの法律が憲法違反であるという判決が出ています。
被害者は手術によって子を産み育てる権利を奪われたことに加え、差別や偏見にさらされて、長年苦労を重ねてこられました。
明石市民にも被害者がいることがわかっています。
「誰一人取り残さない やさしいまち」を掲げてまちづくりを推進する明石市は、これまでもみんなの税金を使って、子ども施策や困っている市民への支援を進めてこられました。被害の大きさを考えれば、300万円の支援金は決して多すぎる金額ではありません。
明石市では「手話言語・障害者コミュニケーション条例」や「障害者配慮条例」を制定し、障害者に合理的配慮を行う事業者に対する公的助成制度をスタートしたり、明石駅周辺をバリアフリー化するなど積極的な取り組みを進めています。
障害者のみならず全ての明石市民が困った時には支援を受けられる「やさしいまち」になるよう、旧優生保護法被害者支援条例の制定を強く要望します。
<請願項目>
旧優生保護法被害者等の尊厳回復及び支援に関する条例を早期に制定し、明石市が優生思想、障害者差別を許さないことを宣言するとともに、甚大な被害を受けた市民を支援してください。
30~32ページ
優生保護法(抜粋) 昭和二十三年七月十三日法律第百五十六号
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもつて定めるものをいう。
2 この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。
第二章 優生手術
(医師の認定による優生手術)
第三条 医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。
一 本人又は配偶者が遺伝性精神変質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇形を有し、又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有しているもの
二 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの
三 本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの
四~五 略
2 前項第四号及び第5号に掲げる場合には、その配偶者についても同行の規定による優生手術を行うことができる
3 第一項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足りる。
(審査を要件とする優生手術の申請)
第四条 医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患に罹つていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない。
(優生手術の審査)
第五条 都道府県優生保護審査会は、前条の規定による申請を受けたときは、優生手術を受くべき者にその旨を通知するとともに、同条に規定する要件を具えているかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び優生手術を受くべき者に通知する。
2 都道府県優生保護審査会は、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見をきいて、その手術を行うべき医師を指定し、申請書、優生手術を受くべき者及び当該医師に、これを通知する。
第六条~第九条 略
(優生手術の実施)
第十条 優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、第五条第二項の医師が、優生手術を行う。
第十一条 略
(精神病者等に対する優生手術)
第十二条 医師は、別表第1号又は第2号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又は精神薄弱に罹つている者について、精神保健法(昭和二十五年法律第百二十三号)第二十条(後見人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者が保護義務者となる場合)又は同法第二十一条(市町村長が保護義務者となる場合)に規定する保護義務者の同意があつた場合には、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる。
第十三条 略
第三章 母性保護
(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条 都道府県の区域を単位として設立せられた社団法人たる医師会の指定する医師(以下指定医師という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一 本人または配偶者が精神病、精神薄弱、精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの
二 本人または配偶者の四親等以内の血族関係にある者が遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの
三 本人または配偶者が癩疾患に罹つているもの
四~五 略
2~3 略
第十五条~第三十九条 略
33~35ページ
旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(抜粋)
(平成三十一年法律第十四号)
昭和二十三年制定の旧優生保護法に基づき、あるいは旧優生保護法の存在を背景として、多くの方々が、特定の疾病や障害を有すること等を理由に、平成八年に旧優生保護法に定められていた優生手術に関する規定が削除されるまでの間において生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきた。
このことに対して、我々は、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くおわびする。
今後、これらの方々の名誉と尊厳が重んぜられるとともに、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにするものである。
ここに、国がこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、この法律を制定する。
第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関し必要な事項等を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において「旧優生保護法」とは、昭和二十三年九月十一日から平成八年九月二十五日までの間において施行されていた優生保護法(昭和二十三年法律第百五十六号)をいう。
2 この法律において「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者」とは、次に掲げる者であって、この法律の施行の日(第五条第三項において「施行日」という。)において生存しているものをいう。
一 昭和二十三年九月十一日から昭和二十四年六月二十三日までの間に、優生保護法の一部を改正する法律(昭和二十四年法律第二百十六号)による改正前の優生保護法第三条第一項又は第十条の規定により行われた優生手術を受けた者(同項第四号又は第五号に掲げる者に該当することのみを理由として同項の規定により行われた優生手術を受けた者を除く。)
二 昭和二十四年六月二十四日から昭和二十七年五月二十六日までの間に、優生保護法の一部を改正する法律(昭和二十七年法律第百四十一号)による改正前の優生保護法第三条第一項又は第十条の規定により行われた優生手術を受けた者(同項第四号又は第五号に掲げる者に該当することのみを理由として同項の規定により行われた優生手術を受けた者を除く。)
三 昭和二十七年五月二十七日から平成八年三月三十一日までの間に、らい予防法の廃止に関する法律(平成八年法律第二十八号)による改正前の優生保護法第三条第一項、第十条又は第十三条第二項の規定により行われた優生手術を受けた者(同法第三条第一項第四号又は第五号に掲げる者に該当することのみを理由として同項の規定により行われた優生手術を受けた者を除く。)
四 平成八年四月一日から同年九月二十五日までの間に、優生保護法の一部を改正する法律(平成八年法律第百五号)による改正前の優生保護法第三条第一項、第十条又は第十三条第二項の規定により行われた優生手術を受けた者(同法第三条第一項第三号又は第四号に掲げる者に該当することのみを理由として同項の規定により行われた優生手術を受けた者を除く。)
五 前各号に掲げる者のほか、昭和二十三年九月十一日から平成八年九月二十五日までの間に日本国内において行われた生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けた者(次に掲げる事由のみを理由として行われた生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けた者であることが明らかである者を除く。)
イ 母体の保護
ロ 子宮がんその他の疾病又は負傷の治療
ハ 本人が子を有することを希望しないこと。
ニ ハに掲げるもののほか、本人が当該生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けることを希望すること。
第二章 一時金の支給
(一時金の支給)
第三条 国は、この法律の定めるところにより、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対し、一時金を支給する。
(一時金の額)
第四条 一時金の額は、三百二十万円とする。
(一時金に係る認定等)
第五条 厚生労働大臣は、一時金の支給を受けようとする者の請求に基づき、当該支給を受ける権利の認定を行い、当該認定を受けた者に対し、一時金を支給する。
2 前項の一時金の支給の請求(以下単に「請求」という。)は、当該請求をする者の居住地を管轄する都道府県知事を経由してすることができる。
3 請求は、施行日から起算して五年を経過したときは、することができない。
第六条~第十五条 略
第三章 旧優生保護法一時金認定審査会 略
第四章 調査等及び周知
(調査等)
第二十一条 国は、特定の疾病や障害を有すること等を理由として生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けることを強いられるような事態を二度と繰り返すことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資する観点から、旧優生保護法に基づく優生手術等(第二条第二項各号に掲げる者に係る生殖を不能にする手術又は放射線の照射をいう。)に関する調査その他の措置を講ずるものとする。
(この法律の趣旨及び内容についての周知)
第二十二条 国は、この法律の趣旨及び内容について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、その理解を得るよう努めるものとする。
36~37ページ
「不幸な子どもの生まれない県民運動」についての資料
尾上 浩二
「第20回障がい者制度改革推進会議 提出資料より」
1970年の心身障害者対策基本法成立と前後して、自治体レベルでは「不幸な子どもの生まれない県民運動」といった、「障害=不幸」と決めつけた上で、障害者を「あってはならない存在」とみなす行政主導の啓発や取り組みが繰り広げられた歴史的事実がある。
その一つの例として、兵庫県において展開された「不幸な子どもの生まれない県民運動」の資料を紹介させて頂く。
【兵庫県「不幸な子どもの生まれない運動」の経過】
1966年4月 兵庫県衛生部が中心となって同運動スタート
同年 6月 「不幸な子どもの生まれない施策を進めるために」(兵庫県 医第556号)策定。以降、各種施策とともに県民大会等を展開。
1970年8月 兵庫県「不幸な子どもの生まれない対策室」設置
1974年4月 障害者団体の抗議を受けて、「不幸な子どもの生まれない対策室」廃止、運動の名称も変更される
【同運動における「不幸な子ども」とは】
『不幸な子どもの生まれない施策―5か年のあゆみ―』(1971年10月)によると、
「この施策の対象となる”不幸な子ども”とは、どのような者を指すのか、分類すると次のごとくである。
1 生まれてくることを誰からも希望されない児
人工妊娠中絶胎児
2 生まれてくることを希望されながら不幸にして周産期に死亡する児
流・死産児、新生児死亡、乳児死亡
3 不幸な状態を背負った児
遺伝性疾患をもつ児、精神障害児、身体障害児
4 社会的にめぐまれない児
保育に欠ける児」
【同運動の背景にある「障害=不幸」とする障害者観】
上記に分類された「不幸な子ども」の中でも障害児の存在が相当意識されていたことは、次のような当時の県行政担当者の文章からも読み取ることができる。
★『不幸な子どもの生まれない施策 通ちょう集(第一輯改訂版)』1967年より
しあわせを求めて(当時の兵庫県知事)
ひとりで食べることも
歩くこともできない
しあわせうすい子どもが
さみしく毎日を送っています
「不幸な子どもだけは生まれないでほしい」
母親の素朴な祈りそれはしあわせを求める
みんなの願いでもあるのです
あすの明るい暮らしを創造するために
「不幸な子どもの生まれない施策」を/みんなで真剣に/進めてまいりましょう
★『不幸な子どもの生まれない施策 2カ年間の歩み』1968年より
はじめに(当時の兵庫県衛生部長)
次代を背負う子どもたちが心身ともに健やかに生まれ、かつ、育てられることは、すべての“しあわせ”の根元であり、みんなの切なる願いであります。
しかし、このような願いにもかかわらず、知恵おくれや身体障害など薄幸な子どもの生まれる率は案外に多い現状です
このように、障害=不幸、あるいは「あってはならない存在」とする障害者観がまかり通っていた時代の中で、心身障害者対策基本法 第二章・障害の発生予防の章が設けられたことは、紛れもない事実である。
また、自治体レベルでのキャンペーンだけではなく、国レベルでは1973年には優生保護法の改悪(反対運動にあい廃案)も進められようとしたことも。忘れてはならない歴史的な経過である。
※本資料を作成するに当たって、大阪人権博物館職員の松永真純氏の論文『兵庫県「不幸な子どもの生まれない運動」と障害者の生』を参考にさせて頂くとともに、同氏からの貴重な資料提供を頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。
38ページ
おわりに ~障害当事者からの喜びの声~
日本全体がやさしい市町村になっていくことを願って
明石市障害当事者等団体連絡協議会(通称あすく)会長
明石地区手をつなぐ育成会 会長
四方 成之
当団体は市内の身体、精神、知的三障害の当事者や精神障害・知的障害等の本人がコミュニケ-ションをとりにくい方たちの家族などの会9団体で構成する協議会です。
今回は当会全員の総意に基づき明石市議会に条例採択の請願書を提出いたしました。
結果として紆余曲折があったものの、制定に至ったことに心から感謝いたします。さらに望むなら、市議会にて全員一致での賛成を願ったのですが、かないませんでした。
この条例は単に被害者等への支援や尊厳の回復のみならず、根底にある差別意識、優生意識に対して真正面から向き合う、全国自治体でも初めてのものです。これは明石市の市民が今まで積み重ねてきた「誰一人取り残さないインクルーシブなまちづくり」の精神があってこそだと思います。
障害のある当事者やその家族等にとっては本条例が広く市民の方々に理解されさらに住みやすい明石のまちになること、やさしいまち明石の理念が他の地方自治体に波及し日本全体がやさしい市町村になっていくことを願います。
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少しでも“心の復興”ができますように
明石市障害者当事者等団体連絡協議会(通称・あすく)副会長
明石市視覚障害者福祉協会 会長
山下 利次
あすくは、設立4年目に入りました。各団体が差別や悩み事相談に取り組み、力を合わせて活動しています。私自身も、全盲の視覚障害当事者です。
さて、あすくは9団体総意のもと『条例の制定を求める請願書』を提出しました。理由は、二度とこの様な、悲しい優生思想を起こさせないためと、国や県が被害者に対して真に向き合わず放置しているからです。次の世代を担う子供たちに、戦後にこのような悲しい出来事があり、その被害者が今もなお苦しみ、裁判をされている事を知ればどの様に思うのか。この人権無視の「負の遺産」を残してはならないと考えました。
この様な状況で、条例、そしてあすくの請願書が採択可決されたことは喜ばしい事と感じています。また、全国自治体で初めての条例ですが、忘れてはならないのは、全国で多くの被害者が裁判をされている事、そして、何より被害者の“お身体の復興”はかなわない事。せめて、せめて少しでも“心の復興”が出来ます様に心からお祈り申し上げます。
ご本人や家族がもしかしたら被害者かもしれないと思われる方は
市民相談室(時間 平日9:00~17:00)
電話 918-5002
FAX 918-5102
発行・編集 明石市 2022年2月
40ページ(裏表紙)
やさしい社会を明石から
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